2026.03.20
【バイスタンダーエピソード】『唯一の陽だまり』

僕がヒカルと出会ったのは、父に連れて行かれた会食の席だった。
そこに集まっているのは、地方で名を馳せる企業の社長や、その令息、令嬢たち。みんなそれぞれに自信に溢れていて、煌びやかな明かりの下、楽しげな笑顔を浮かべている。
そんな中でも、一際目を惹く少年がいた。いつでも朗らかな笑顔を浮かべて、誰に対しても物怖じせず、周囲の笑顔や関心を一身に受ける存在。それがヒカルだった。
僕はといえば、ヒカルとは違って会場の陰から彼らを見ているだけの存在。
壁の花にすらなれない僕に、話しかけてくる人なんて誰もいない。もしかしたら、一緒に来た父さんですら、僕のことなんて忘れているかもしれない。「今日もこのまま終わるのかな」なんて思いながら、退屈紛れに毛足の長い絨毯を爪先で蹴る。
そんな時だった。俯いていた僕の目の前に、手のひらが差し出されたのは。
「……え」
突然のことに呆けるしかない僕に、ヒカルは優しく寄り添ってくれた。僕と話してみたかった、なんて言ってくれた。
人と話すのに慣れていないから、最初は戸惑ったけれど、ヒカルはそんな僕に合わせてゆっくりと話してくれる。こんなにも誰かと話すのが楽しいと思ったのは生まれて初めてで、僕はすぐに彼のことが大好きになった。
ヒカルと知り合ってしばらくたった頃。ひどく落ち込むことがあって、もう何をするのも嫌で、生きているのさえ辛いと思っていた。大好きなヒカルとの連絡さえ絶って、ただ息をするだけの日々。もうこのまま消えてしまえたら、なんて思っていたある日。
部屋でぼんやりとしていた僕の目の前に、手のひらが差し出された。彼と出会ったあの日と同じように。
案の定、顔を上げればそこには大好きなヒカルの笑顔があって……。心配だから会いに来たと言うヒカルの言葉に、僕はみっともないくらい泣いてしまった。
「ヒカルみたいに、たくさんの人に必要とされるにはどうしたらいいんだろう?」
泣きはらした目を擦りながら聞く僕に「愛されたいなら、まず自分から愛さないと」教えてくれた。
実際彼は、色んな人に愛される一方で、周りの人を愛していた。自分を嫌っているような人でも、分け隔て無く。
だけど、もしかしたら、ヒカルは「愛」というものを、本当は理解していないんじゃないかと思う時がある。だって彼は時々、空っぽの人形のような瞳で笑うから。
その笑顔を見ていると、僕はたまに不安でたまらなくなる。
ヒカルの中に、僕という存在の居場所はないのかもしれないと思ってしまって。
でも、たとえそうだったとしても、僕はこの先もヒカルの傍にずっといる。
だって他に、僕の居場所なんてないんだから。
著:海野 凛久