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【WD限定ノベル】小雨ナオ 2026.03.14  【WD限定ノベル】小雨ナオ

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 サツキさんからの提案で、お店で出すホワイトデーのクッキーを考えることになった。

 とはいえ、僕たち学生にとって3月は忙しい時期だから、軽い試食会で選考を終えて、お店に出すクッキーを決めるらしい。

(……ホワイトデー、かぁ)
 ボクはこれまでに、バレンタインチョコをもらったことがない。
 自分から人にあげる勇気もなかった。迷惑だと思われてしまったら、と思うと、怖くてダメだった。

(こんなボクが、ホワイトデーのこと考える日がくるなんて……思って、なかったなぁ)

 そんなことを考えながら、学校から帰っていると、青と白の華やかなポスターが目に止まった。
(あれは……)

 よく見かけるデパートのロゴが入っている。
 近付いて内容を読んでみると、ホワイトデーのスペシャルセールで、いろんなクッキーのお店が期間限定で出店してきているらしい。
 ポスターのQRコードをスマホで検索してみると、美味しそうなクッキーの写真がぎっしりと並んだ特設サイトにジャンプした。

(すごい……。ボクの知らないお菓子が、こんなにいっぱい……)
 ちょっとスクロールするだけでも目移りしてしまう。

(ここ見て帰ったら、何か思いつけるかな……)
 少しだけ、心臓が高鳴った。

(サツキさんの役に……ちゃんと、立てるかもしれない)

 スマホの地図アプリで、デパートまでの道を検索する。
(放課後の、帰り道で……寄り道するぐらい、なら、がんばりすぎたことにはならないよね?)
 ちょっとだけ帰り道を変えて、デパートに寄ってみる。

 喫茶店で、ホワイトデーのクッキー試食会をやる、と聞かされた日に、サツキさんから
「本当に、1種類だけでも提案してくれれば十分ありがたいんだから……。あんまり気負いすぎずにやってね」
 と、散々念押しされた。

「本来なら、店長の僕が一人で決めた方がいいのかもしれないんだけど」
 と、ちょっと申し訳なさそうにもしていた。

 だけど、これはボクにとって、貴重な機会だった。

 サツキさんがボクを頼ってくれるなんて、本当に、滅多にないことだ。
 ボクは子どもだし、サツキさんは大人だ。だから頼られないのは当然のことかもしれないけど、ボクは、ボクに居場所をくれたサツキさんに、何か恩返しがしたかった。

(珍しいクッキーとか、面白いクッキーとか……役に立つ情報、見つけられたら、サツキさん、喜んでくれるかな……)

 ボクは、ドキドキしながらデパートへ向かった。

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 それから、数十分後。
(……だ、ダメだ……)

 メモアプリを開いたまま、ボクは動けなくなっていた。
 いろんなクッキーを試食させてもらううち、頭がいっぱいいっぱいになってしまった。

 手にした袋には、いろんなお店のチラシがぎっしり入っていた。

 最初は何かの参考になるかなと思って集めていたんだけれど、店を見れば見るほど、情報が溢れていて訳が分からなくなってくる。

(作り方も……ちゃんと聞いたら、うちで再現する参考になるかなって思ったけど……知らない材料とか、わからない調理方法とかいっぱいあって……混乱する……)

 手作りは諦めて買った方が良いんだろうか。でも、買うにしたって、どんなクッキーがいいんだろう。
 どれも素敵に見えて、答えが出せない。時間ばかりが過ぎていく。

 サツキさんの役に立つどころじゃなかった。

(……今度こそ、役に立てると、思ったのに……)

 特設ストアがひしめくフロアの隅っこで小さくなって休憩していると
「ナオ?」
 知った声がかけられた。

「い……イザナさん!?」
「何してるんだ、こんなところで……」
「えっと……」

 イザナさんは、ボクの手提げをチラッと見た。
 それだけで、ボクの考えは見抜かれてしまったらしい。

「……なるほど。ここで情報集めて、試食会に備えようとしたけど、多すぎて逆に混乱してる……ってとこか」
「……ど、どうして分かるんですか……」
「お前の顔に全部書いてあるんだよ」
 イザナさんはやれやれと首を振りながら、ボクの隣に座った。

「サツキがお前に助けてほしい、って言ったのは、多分、情報量とかテクニックじゃないと思うぞ。どっちもサツキの方がよっぽど上だろ」
「……それは……確かに……」

 ボクが助けになろうと思ったのがおこがましかったのかもしれない、と、暗い考えが胸に広がりそうになった矢先
「あのな」
 と、イザナさんが口を開いた。

「サツキになくてお前にあるもの、何だと思う?」
「えぇっと……」
 そんなもの、あるんだろうか。サツキさんは大人で、何でもできる人なのに。

「……わかんない、です」
「素直に喜ぶ気持ちだよ」

「え?」

「サツキみたいなひねくれた大人は、プレゼントとか、感謝の日とか、仕事でもなきゃやってられないだろ」
 そんな風にサツキさんを見ていなかったので、思わず目をぱちくりさせてしまった。
「つまりサツキは……こういう、誰かのために何かをする日、ってのに、慣れてない。もちろん、俺も」

「……イザナさんも?」
 いつもボクのためにあれこれしてくれている自覚はないのか、イザナさんは言葉を続ける。

「だから、お前みたいなヤツが必要なんだよ、ナオ。人に喜んでもらおうとか、誰かの役に立とうとか……そういうことを思えるような、お前のまっすぐな心で考えたとき、ほしいプレゼントがなんなのか……。サツキはそれを知りたいんじゃないのか?」

 ぎゅっと、胸に手を当てた。
(……ボクが……できること……)

 臆病で、これまで誰にも、ちゃんとプレゼントを渡せてこなかった。
 こんなボクでも、役に立てるんだろうか。

(ううん、イザナさんがこんな風に言ってくれたんだ……。ボクが思う、一番の、プレゼント……)

「……あ、あの」
 思い切って口を開いた。

 ボクの思いつきを、イザナさんはじっくり聞いてくれた。

 そして
「面白いんじゃないか」
 と、一言言ってくれた。

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 試食会当日。

 ボクは、ラッピングのセットを用意して、ちょっとだけ深呼吸した。

 卒業式の準備で見た花束。
 思いのこもった花束が、頭にずっと残っていた。

(思いがちゃんと、伝わりますように……)

 何種類もの手作りクッキーを、ブーケに見立てて、包んでいく。

 あの日見たたくさんのクッキーから、ボクは選べなかった。
 全部、誰かの思いがこもった、素敵なプレゼントだと思ったから。
 だから、それを束ねて、花束にしたいと思った。

 焦らず、急がず、丁寧にクッキーをラッピングしていく。
 一つ一つの手間を、しっかりかけて。
 不器用でも、ちゃんと、思いが伝わるように。

(ボクの……初めての、贈り物。喜んで、貰えますように)

 とくん、と、脈打ったこころは、温かいままだった。




著:佐久田 葉

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