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【WD限定ノベル】鉄地瓦シュウ 2026.03.14  【WD限定ノベル】鉄地瓦シュウ

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 俺の家は、オヤジもじいちゃんも寡黙だった。
 愛してる、なんて歯の浮くような言葉はほとんど言わないし、感謝は言葉より態度で示すものだと教わった。
 嬉しいことがあっても、派手に喜ばない。悲しいことがあっても、涙はこぼさない。感情は顔に出さず、腹に溜め、成すべきことを成す。

 そういう背中を見て育ったもんだから、俺も二人に、強めの感謝をハッキリ伝えたりせず過ごしていた。
 気持ちは言わなくても伝わるもんだと思ってたし、実際、オヤジやじいちゃんの気持ちは一緒に過ごしていて理解できていると思っていた。

 人間づきあいというのは、そういうものだと思っていた。

 だけに、2月14日のことは衝撃だった。

 居間につくと、俺の席に、ラッピングされたギフトが置かれていた。
「え……?」

 まったくと言っていいほど心当たりがなかった。
 困惑しながら包装をほどいていく。中身は、チョコレートボックスだった。色とりどりの銀紙で、形の違うチョコがひとつひとつ個包装されている。どう見てもそれなりの品だ。

 本当に心当たりがない。得体の知れない贈り物は、喜びではなく恐怖をもたらすのだと、いらんことを知る。

 ジッと固まっていると、兄貴と弟が顔を出した。
「マジかよシュウ」
「兄ちゃんいつの間に彼女出来たの!?」
 と、こっちの気も知らずに、物珍しがってのぞき込んで来る。

「知らねぇ」
 とぶっきらぼうに返して中身を確認していると、メッセージカードがパサリと落ちてくる。

 手書きで
『いつもおおきに! アキちゃんより』
 と、屈託のないメッセージが書かれていた。

(なんだ、アキラか……)
 心底ホッとして、思わずため息が出る。

「アキちゃんねぇ……」
「コイツ男。ただの友チョコ」
「隠さなくていいんだよ、兄ちゃん」
「めんどくせぇから絡むな」

 閉口しそうになった矢先、唐突にスマホが鳴り響いた。
 ユウヤからだ。

「もしもし」
 と応答すると、ユウヤは、キュウリを見た猫が縦に飛び上がったまま降りられなくなったような半狂乱のテンションで、何かをまくし立ててきた。

 どうやらユウヤのところにも、友チョコが届いたらしい。

「こんっ、あのっ、えっ、あぁ!? なんっ!! に゛ッ!?」
「俺んとこにも来た」
「なんで!?」
「知らねえ。大阪は男子も友チョコやる文化なんじゃねえか」
「大阪関係ないやろ!!!!!!! アイツの距離感どないなっとんねん!?!?」
「俺に言うな」
「え、なぁ、え、え、これどないしたらええ!?」
「食えばいいだろ」
「そやなくて、返礼品て……」
「ホワイトデーは3月14日だろ。じゃあな」

 電話をピッと切る。ユウヤがなにか鳴いていた気がしたが、どうせしばらくは収まらないだろう。俺以上に、直球の友情に不慣れらしい。

 詮索してこようとする兄弟を置いて、自分の部屋に戻る。

 アキラからの突然のプレゼントに、イヤな気持ちはしなかった。
 それどころか、じんわりとした嬉しさがあった。
 人生観が、少しだけ変わったのを自覚する。

(日頃の感謝って……こうやってちゃんと、形や言葉にして、伝えていいもんなんだな)

 オヤジ、じいちゃん、お袋。ついでに兄貴と弟。
 家族の顔が、脳裏に浮かんだ。

 身近な彼らに、どれぐらい感謝を返せてきただろう。

 さっきまでは、言葉の少ない付き合いが心地よかった。態度でちゃんと示せていれば、それで十分だと思っていた。
 だけど、そんな日々の中で、取りこぼしてきたメッセージがあったのかもしれないと思い至った。
 真っ直ぐな感謝と言葉は、少し気恥ずかしいけど、嬉しいものだったから。

 チョコレートを食べながら、チャットアプリを開いて、アキラに連絡を取る。
『チョコありがとな。美味い』

 すぐに既読がついて、返事がきた。
『お、ちゃんと届いたんやな! 良かった!』

『友だちからもらったの、初めてだった
 びっくりしたけど嬉しかった』

『ホンマ? たーんと味わってや!』

 そこでやりとりを終えても良かった。
 だけど、アキラになら相談できるかもしれないと思って、チャットを続ける。

『少し、話聞いてほしいんだけどいいか』
『ええよ』

 ほぼノータイムで請け負ってくるところが、アキラらしい。

『うちの家は、あんまり、家族行事ってやってなくて』
『ほんほん』

『母の日にみんなでお袋に感謝する以外は、割とおろそかで
 男ばっかだから、言わなくても分かるよなって感じの家で』

『あー、職人肌っぽいしな』

『けど、アキラみたいにプレゼント出来んの
 俺はいいなと思ったんだ』

『照れるやん』

『だから、今年のホワイトデーに
 何か返してみようと思って』

『ええやん!』

『……今更すぎねぇかな』

 少しの間が空いた。
 かと思うと、アキラから着信が入った。

「もしもし」
「もしもし! いきなり堪忍な! 口の方がええなと思って!」
 アキラらしい。

「感謝に遅すぎるとかあらへんよ、ほんまに。家族って、同性やとなおさら、妙なこっぱずかしさとか雑さとかもあって、よーやらんのも分かるけど。けど絶対、遅いとかない! 絶対、絶対、やった方がええ!」
 アキラの言葉には、いつも以上の熱があった。

 どう返していいか、言葉を探して黙っていると
「それだけ言いたかってん。突然の電話、出てくれておおきに」
 と、アキラは少し、気恥ずかしそうに添えた。

「いや……わざわざありがとな。参考になった」
「ん。こんぐらい安いもんやで!」

「……アキラは、家族にもバレンタインチョコ贈ってるのか?」

 返事が来るまで、少し間が空いた。
「もちろん、贈っとるで! 日頃の感謝なんて、ナンボ形にしてもええからな!」

 変な照れや気負いはない。
 良い、と、率直に思った。

「……相談乗ってくれてありがとな。タイミングずれるけど、俺も、家族にホワイトデー贈ってみる」
「ええな。応援しとるで!」
「おう。じゃ、またな」
「ん、ほな!」

 ぴ、と、電話を終える。

 言葉で上手く伝えられないのなら、プレゼントがいい。
 職人は技術で語るものだと、オヤジとじいちゃんは言っていた。

 それなら、プレゼントにも、技術を込めよう。日頃の感謝を伝えるのに、それ以上の方法は、きっとない。

(……まだあと、一ヶ月ある)
 頭の奥で、ギアがかみ合う感覚がある。アイデアが、頭の中でめぐり始めるのが分かった。




著:佐久田 葉

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