【#月白イザナ生誕祭2026】祝いの前に 2026.02.13  【#月白イザナ生誕祭2026】祝いの前に

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 イザナさんは、とっても鋭い。
 ボクより頭もいいし、細かいことにもすぐ気がつく。
(でも、今回だけは……イザナさんに気付かれないように……うまく、やらなきゃ……!)
 ケーキ屋さんで、ショーケースを前にゴクリと唾を飲み込む。
 イザナさんの些細な行動も見逃さないよう、背後からじっと、その動きを眺める。
 その矢先、イザナさんが唐突にこっちを振り向いた。
「ひッ、ひゃっ!?」
「ひゃって……。何ビビってんだよ」
「なっ、なんっ、なんでもないです……」
「……ま、いいけど」
 イザナさんは呆れたように目をすがめた。
「で?」
「え……っと?」
「サツキが買って来いって言ったケーキのリスト。あるんだろ?」
「あ、はい……えと」
 ポケットからメモ帳を取り出す。
「ショートケーキと、レモンタルト……あと、オペラ、シフォンケーキと、レアチーズケーキ……です」
「結構買うんだな」
「お、お店の……新メニュー開発の参考に、って……。あ、あとで、ボクたちと一緒に、試食会しようって言ってました」
「ふぅん……? それって、サツキが将来、採用したケーキを自分で焼くつもりってことか?」
「た、多分……」
「へぇ……。アイツ、コーヒーとか店がらみのことになると目の色変わるよな」
「そ……そう、ですね……」
 イザナさんは、ショーケースのケーキを眺める。
 どのケーキを見ても、表情は変わらない。注文通りのケーキがあるか、ざっと確認しているだけだ。
(やっぱり……イザナさんの考えを、表情から読むなんてマネ、ボクにはできっこない……)
 作戦その一。ケーキの名前を聞いたときのイザナさんの反応を見る……は、失敗に終わった。
(だったら、作戦その二……! それっぽく、自然に話を振って、聞き出す……!)
 意を決して、ごくっと唾を飲み込む。
「あっ、あのっ……! い、イザナさんっ!」
「何?」
「えぇと、その……。い、イザナさんは……ケーキとか、す、好き……ですか……?」
「は?」
「え、っと、だから、あの……」
「お前から雑談振ってくるなんて珍しいな?」
 イザナさんは少し腕組みした。
(し、自然に……聞けなかった……! あ、怪しまれてる……?)
 ドギマギして目が泳ぐボクをよそに、イザナさんは少し考える様子を見せた。
「まぁ、嫌いってことはないけど。お前は?」
「ぼ……ボクは……ショートケーキ、とか……す、好き……です……」
 家では、ボクの分だけない、なんてこと、しょっちゅうで。親戚の人が来たときぐらいしか、ありつけたことはなかったけど。
 でも、幸せで美味しい味がしたのは、覚えている。
 イザナさんは何かを察したのか「ふぅん」とまた小さく相づちを打った。
「……俺も好きだよ、ショートケーキ」
「えっ」
「逆に、レモンとか、酸っぱいのは苦手。子どもの頃イタズラで食べさせられてから……そっからずっと」
「そう……ですか……」
 酸っぱいもの、NG。頭に叩き込む。
 一方のイザナさんは、店員さんに声をかけ、ケーキをサクサクと揃えていく。
(あ、もうお会計……終わっちゃう……)
 慌てて近付くと、ボクの鼻先に
「ん」
 と、イザナさんが、小さいケーキの箱を突き出した。
「え、あれ?」
 ケーキが六個入っている……にしては小さすぎる。
「こ、これは……?」
「お前の分。崩すなよ?」
「……えっ!? ぼ、ボクの……?」
「お前が買い物についてくるなんて珍しいし。食べたかったんだろ、ケーキ」
「え、えと……」
 そうじゃなかった、けど。でも、嬉しくて、思わず顔がにやけそうになる。
 それを必死にこらえていると、イザナさんはまた呆れたように
「なんだ、どういう感情だよその顔」
 と少し笑った。
「だ、だって……ぼ、ボク、誕生日、とかでも、ないのに」
「誕生日じゃなきゃケーキ食べちゃダメってルールでもあるのか?」
「そっ、そういうわけじゃ……」
「なら、もらっとけば」
「……ほ、ホントに……い、いいんですか?」
「しつこいな。いらないなら俺がもらうけど?」
「あ、そ、そうじゃ、なくて……」
 ボクの方が、イザナさんに誕生日プレゼントをしたかったのに、こっちが不意打ちされてしまった気がした。
 だけど、それがなんだか嬉しくて、あったかくて。
「……イザナさん、ありがとうございます」
 ぺこっ、と、深く頭を下げる。
 イザナさんは振り向かず、「べつに」と、いつもの素っ気なさで答えた。

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