2026.08.24
【ブックマークエピソード】飢愛

【飢愛】-カツアイ-
愛をもとめるほどに、飢えていく
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生まれた時から、ありとあらゆるものを与えられてきた。
欲しいものは「欲しい」と思う前に手の中にあったし、俺の傍には常に誰かがいた。
本当に何一つ困ることがない環境だった。
──でも、そんな俺にも一つだけ持っていないものがあった。
「ヒカル様、今日のおやつはヒカル様のお好きなプリンですよ」
生まれた時から俺の傍にいたのは、親から世話係を任された女性だった。
優しくて温かくて、家族よりも俺を大事にしてくれていたと思う。
俺の家族は、物心着く前からほとんど泣かない俺を気味悪がって、近づこうとしなかったから。
そもそも、俺の両親だという人たちは、互いを想い合っているようには見えなかった。
父さんは遅くまで帰って来なかったし、母さんはそもそも実家に帰ってばかりで家にいなかった。
祖父も一緒に暮らしていたけれど、俺のことを気味悪そうに見るばかりで、声をかけてくることもなかった。
でも俺は構わなかった。家族がくれないものを、世話係の彼女が与えてくれていると思っていたから。
だけど、違った。
彼女が与えてくれるのも、俺が欲しいものじゃなかった。
彼女にも家族がいた。
夜になれば、彼女は家族の元に帰っていく。
「私にも、ヒカル様と同じ年頃の息子がいるんです」
そう話す彼女の顔は、とても嬉しそうで、とても柔らかかった。
俺に向けられるものとを違う。俺の持っていない「何か」が含まれたその笑顔。
それが「愛」というものだと知ったのは、それからすぐのことだった。
(どうしたら、俺も「愛」がもらえるんだろう)
手にしたことが無いものだから、どうすれば手に入るのかわからない。
今まで、たくさんの「物」は与えられてきた。
どれもこれも質の良い物ばかりで、それには不満なんてない。
けれどそこには、一欠片だって「愛」はなかった。
──だから知りたかった。
愛がどんなものなのか。
──だから欲しかった。
愛だけは持っていなかったから。
そこから俺は、愛というものを勉強した。
観察して、本を読んで。
学んで学んで学んで学んで――俺は「愛」について知った。
「愛されたいなら、愛さなければならない」という知識を得た。
そのうち、上手に「愛する」の真似事ができるようになった。
そして最初に得たのは、俺の世話係の「愛」だった。
世話をしてくれる感謝を伝えた。
俺の寂しさを伝えた。
彼女が母のようだと微笑んだ。
傍にいてくれると安心すると囁いた。
──そうやって俺なりの「愛」を彼女に伝え続けた。
「……あなたが、俺のお母さんだったらよかったのに」
(俺の愛を差し出すから、君の愛もちょうだい)
「息子が反抗期を迎えて……」と言っていた彼女は、タイミングも相まって俺に時間を割いてくれるようになった。
それまで身の回りの世話だけだったのに、宿題を見てくれるようになって。
登下校の送り迎えに付き添ってくれるようになって。
遅くまで一緒にいてくれるようになって。
「ヒカル様は、私の本当の息子のような存在ですよ」
それが、俺が初めて手にした「愛」だった。
それからも、俺はたくさんの「愛」を手にしていった。
周りの大人たちから愛され、友人たちから愛され、様々な形の愛を得た。
それはとても心地がよくて、でも同時に「本物」でないこともわかっていて。
(本物の愛、いつか俺も手に入れられるかな……?)
ただ、俺だけを見て、想って。
俺だけに注がれる「本物」の愛。
それが手に入れられたなら、どんなに素晴らしいだろう。
どんなに心地いいだろう。
(ああ、早く巡り会えないかなあ……)
物語で綴られる運命のような「愛」の持ち主に。
(俺だけの愛……見つけたら絶対に手放さないようにしないと)
それが例え、どんなに歪で歪んだものであったとしても。
――俺が愛してあげるからね。
著:海野凛久