2026.04.06
【ブックマークエピソード】癒罰
【癒罰】-ユウバツ-
だれかを癒やすことは罰であり、つぐないである
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僕はかつて、ブックマーカーだった。
イザナくんやナオくんに出会うよりだいぶ昔のこと。
当時の僕は、今ほど心に余裕がなかった。
今の僕ならすんなり答えが出せることも、当時は上手く飲み込めなくて、がむしゃらに他人を突っぱねてしまっていた。
そんなときに、手を差し伸べてくれたのが彼だった。
彼は穏やかで、優しくて、まるで兄弟のように、あたたかな言葉で寄り添ってくれていた。
それなのに僕は、彼の優しさを理解できなかった。
目の前のこと、自分のことでいっぱいいっぱいで、何度も彼を拒絶した。
彼は根気強く、僕に向き合おうとしてくれていた。
彼のぬくもりを幾度も払いのけた。そんな助けなんていらない。自分は一人でやっていける、同情なんてするなと、躍起になった。
心のどこかで、このお節介はずっと続くのだろうと思っていた。贅沢なことに、僕は、そんな想像にうんざりさえしていたのだ。
そんな矢先のこと。
彼は、僕をかばって、蟲<バグ>の攻撃を受けた。
致命傷なのが、一目で分かった。手の施しようがなかった。
彼自身にも、もう助からないことは分かっていたんだろう。自分のせいだと嘆く僕を、彼は笑って慰めた。
そして
「君に怪我がなくて良かった」
と、ひどく安堵したように呟いた。
それが、最期だった。
どうして僕は、彼を救えなかったんだろう。
僕が意地を張りさえしなければ。彼の言葉を素直に受け取れていれば、きっと彼はまだ生きていた。
僕が、死なせてしまった。
何度も何度も自分を責めた。無為に自分を傷つけ、ただ、時間だけが過ぎた。
ブックマーカーは続けられなかった。僕は「本の世界」へ行くのをやめ、自分のしおりを棚の奥深くへ閉まった。
「本の世界」で命を落とした彼のことは、皆の記憶から消えていた。
やがて、四十九日が過ぎた。
せめてもの手向けで、ひとり、彼に線香をあげた。
手を合わせるうち、言葉にならない嗚咽がこみ上げた。謝罪も、贖罪も──本当は、伝えたかった感謝すら、もう、彼には届かないのだと、思い知った。
止めどなくあふれそうになる涙を、無理やり拭った。
後悔しても、自分を責めても、もう、彼は戻ってこない。
だったらせめて、彼がいた証を、僕自身が残そう。
彼が生きていれば成したことを、僕が代わりに為し遂げよう。
彼の分まで、人に優しくしよう。
彼の分まで、暖かくあろう。
彼がするはずだったことを引き継いで、誰かを、癒やそう。
誰かを癒やすことは、幼かった自分の犯した罪への罰だ。
そして、彼の死への、せめてもの償いだ。
著:佐久田 葉