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【ブックマークエピソード】依護 2026.08.10 【ブックマークエピソード】依護

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【依護】-ヨリゴ-
護ることは、依りどころをえること

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 僕の1番古い記憶の中の両親は、僕に笑いかけてくれていた。

「トウカ」
「トウカくん、こっちだよ」

 笑顔の二人に駆け寄れば、優しく抱きしめてもらえた。
 たくさん勉強するのは大変だったけれど「跡継ぎ」だから、頑張らないといけなかった。
 でもそれだって、父さんと母さんが褒めてくれれば、全然辛くなんてなかった。だからずっとこのまま、父さんと母さんと一緒にいられると思っていたんだ。

 ――「家族」として。

 けれど、僕の「家族」はあまりにあっさりと壊れてしまった。
 きっかけは、弟が生まれたこと。

 ずっと一人だったから、兄弟ができることが嬉しかった。
 弟の自慢のお兄ちゃんになりたくて、今まで以上に勉強を頑張った。
 お部屋の準備だって手伝って、どうやって一緒に遊ぼうか考えたりもした。

 でも、弟が生まれる少し前、僕はそれまで住んでいた母屋から、敷地内にある離れに居場所を移された。

「悪いなトウカ。でも母さんがどうしてもと言って聞かなくて」

 そう言った父さんは、どこか晴れやかな笑顔を浮かべていた。
 そして僕は、弟に会うこともできないまま、離れで使用人と二人での生活が始まった。

「どうして僕は、向こうの家に住めないのかな……」

 離れに移ってからしばらく経ったある日、僕はそんな疑問を口にした。
 弟に会いたかった。父さんに頭を撫でてほしかった。母さんに抱きしめてほしかった。
 そんな願いを伝える僕に、使用人は悲しげに眉根を寄せた。

「トウカ様は、もう向こうにお戻りにはなれないのですよ」
「……どうして?」

 問い返す声は震えていたと思う。
 なんだが答えを聞くのが怖かったから。
 けれど使用人はただ首を横に振るだけで、何も教えてはくれなかった。

(……もしかして、僕が母さんの思うような子になれていなかったから?)

 父さんは「母さんの希望だった」と言っていた。
 それなら、母さんがまた僕と住んでもいいと思ってくれるように頑張ればいい。

(そうだ……! そうすれば、きっと弟にも会える)

 幼い僕の考えでは、それが正解のはずだった。
 でも、結局僕が初めて弟に会えたのはそれから、それから二年後
 弟の二歳の誕生日だった。

 庭で母さんと遊んでいたのだろう。
 転がったボールを追いかけて、離れに入ってきた。

 僕はただ弟に会えたことが嬉しくて、一緒に遊んであげることにした。
 ボールで遊んでいた。――時間にして、十五分くらいだったと思う。
 弟と縁側で、休憩がてらお菓子を食べていたら、血相変えた母さんが離れに飛び込んで来た。

「その子から離れて……!」

 久々に見る母の顔には、あまりにも明確な憎悪と恐れが浮かんでいた。

 ――どうして?

 僕だって母さんの息子なのに、どうしてそんな目で見るの?
 勉強だって頑張ったし、寂しくてもいい子で待っていたのに。

 ――どうして?

 ただ、弟と一緒に遊びたかっただけなんだ。
 会えるのをずっとずっと楽しみにしていたから。

 でも、何かが喉の奥に引っかかったみたいに、なんの言葉もでてこなかった。
 ただ唯一理解したのは、母さんにとって僕が「邪魔」な存在であるということ。

 程なくして知った。
 僕は母さんの「実の子」じゃないということを。
 実の母は、僕が生まれてすぐに亡くなってしまったらしい。

 これで全部が繋がった。
 「離れに行け」と告げた父の、どこか晴れやかな表情。
 母の憎悪を含んだあの眼差し。

 ――全部、僕が……家族じゃないから。

 僕は邪魔者で、誰にも必要となんてされていない。
 それが痛くて苦しくて堪らなかった。

 けれど、そんな家族の中で僕に手を伸ばした者がいた。――小さくて幼い弟だった。
 僕と遊んだのが楽しかったらしい。

 幼いながらも、また一緒に遊びたいと言ってくれた。
 母さんは難色を示したけれど、弟が望むならと遊ぶことを許してもらえた。

(必要としてもらえた)

 どんな形でも、居場所を与えてもらったことが嬉しかった。
 それからしばらくして、妹もうまれた。

 僕は、色んな知識を頭に詰め込んだ。弟や妹の役に立てるように。
 そのお陰もあってか、弟も妹も僕を頼ってくれるようになった。
 嬉しかった。家族になれた気がしていた。

 けれどあの日がやってきた。あれは初夏を迎えた頃のこと。
 弟と妹と一緒にかくれんぼをしていた。
 
 僕は押し入れに身を隠し、鬼である弟が探しに来るのをまった。
 弟が見つけやすいよう、押し入れを少しだけあけていた。

 でも、待てどくらせど、誰も僕を探しにきてはくれなかった。
 しばらくして、押し入れの隙間から差し込む光が橙色に染まり始めた頃、僕は外へ出た。

 そして知った。
 弟と妹は、父さんと母さんと一緒に出かけたということを。

 僕を探すことなんてとうの昔にやめてしまって、「家族」は出掛けて行った。

 ――……結局、僕は誰にも必要としてもらえない。探してすら、もらえない。

 心が音を立てて軋んだ。

 ――誰か……誰でもいい。この世界でたった一人でいいから。

(僕を必要としてくれる誰かに出会えたら……)

 きっと僕は、その光の強さに焼かれながらも、縋ってしまうだろう。




著:海野凛久

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