2026.03.18
【バイスタンダーエピソード】『異星のコトバ』

シュウは、異星人だ。きっと、元いた星へ帰りたいと願ってる。
そんな喩えが、ぽんと浮かんだ。
彼からすれば、この地球のやりとりこそ、理解不能の異星語に聞こえてるんだろう。だからいつも居心地が悪そうだし、世俗への関心も薄い。
そう。
無自覚に天才を生きるのは、訳も分からず孤独に放り込まれるようなもんだ。
シュウにとってはごくごく当たり前なことなのに、その理屈は、俺を含めた周囲には理解できない。
例えば、この前一緒に飯を食いに行ったときのこと。シュウは棚の上のテレビを見て「壊れちまう」と呟いた。すると、注文したラーメンが出てくるより先に画面が砂嵐になった。なんやかんやで、テレビはシュウが持ち前の七つ道具で直したが、彼はずっと、店主は今日テレビが壊れると分かっていてなぜ放置したのか、と、訝しがっていた。
シュウからすれば「とてもわかりやすい」故障だったらしいが、俺にはほとんど予言に見えた。
きっと万事がこの調子なんだろう。一足す一を答える気安さで、フェルマーの最終定理を証明してくるようなもんだ。あげく、この朴訥な青年は己の才能に無自覚で「自分は説明が下手だから他人に理解されにくい」と雑な自己理解をし「だから人付き合いに向いてない。自己開示はあまりしない」という態度を貫いている。
その状況も、分からなくはなかった。
趣味がバイクいじりだと聞いて、うっかり、速く走るためなのか、と質問したことがある。シュウはひどく困惑した顔をして、視線をさまよわせ、唇を開閉させた。それからひどく気まずそうに、人に理解してもらえるような実用性はない、と言い捨てて、さっさと立ち去ってしまった。
これまでの苦労が滲んでいた。
この異星人は、自分にだけ見える星の輝きを追っている。そして、その輝きを知らない地球人から価値を問いただされることに、うんざりしている。
人との付き合いを閉じがちなのも分からなくはない。そりゃ辟易する。
だけど同時に、悲しくもなった。
だって、シュウは異星人なんかじゃない。目の前の、同じ星に生きる人だ。それがこんなに他人を遠く感じて、一人で断絶されているなんて、それはあんまり、寂しくないか。
本人が慣れきっていても、俺がダメだった。俺の目の前でそんなふうに、ひとりぼっちになっているなんて、俺が我慢できない。
以来、お節介とか迷惑とか百も承知で、俺はシュウに関わっている。誰もひとりぼっちでいて欲しくないと、エゴを押しつける。
それをシュウがどう思っているかは分からない。相変わらずの仏頂面に、歓迎の色が見えた試しはない。
それでもいいと思った。
彼が遠い異星に至るその日まで。同じ言葉を話す人に巡り会えるその瞬間までは、そばをぐるぐる回る探査機が、一つぐらいお供したっていいはずだから。
著:佐久田 葉