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【バイスタンダーエピソード】『ずっと一緒』 2026.03.23  【バイスタンダーエピソード】『ずっと一緒』

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 トウカは結局のところ、ひどく優しくて寂しい人間なのかもしれない。人に尽くすことで、誰かとの繋がりを必死に確かめている。
 嫌われたくない、ひとりぼっちになりたくない、という悲鳴が、トウカの行動のすべてから聞こえてくるみたいに。まるで、俺だけのために用意された傷みたい。
 トウカと初めて会ったときのことは今でも覚えている。
 両親に連れられてきた会食の席。周りの子息や令嬢たちはとっくに飽きて騒ぎ始めているのに、トウカだけは違った。誰にも注目されず、誰と話すでもなく、まるでその場所だけ光が届くのを拒んでいるかのように、静かに座っていた。
 彼の父親は取引先の息子の出来の良さを褒めそやし、すぐそばにいるトウカのことは視界にすら入れていない。トウカがグラスを取り落としても舌打ちひとつ。まるで、そこにいるのが人間ではなく、背景の一部であるかのように。
 その光景を見て、俺は「かわいそう」なんて思わなかった。むしろ、歓喜に近い感情が湧き上がった。
 ああ、なんて完璧な器なんだろうって。

「……見つけた」

 誰の色にも染まっていない。内側から乾いてひび割れている。空っぽで、ただ与えられるのを待っているだけの存在。
 だから、知りたくなった。きっと同じような環境で愛を知らずに育ち、空っぽのまま大きくなったトウカ。そんな彼に、俺が愛を注ぎ続けたら、彼は一体どんな愛を返してくれるんだろうって。トウカなら、愛を見つけてくれるかもしれない。
 あれから俺は、トウカにたくさんのおねだりをしてきた。そのたびにトウカは喜んだ。
 俺のおねだりをクリアすることが、彼が自分の価値を証明できる唯一の方法みたいに。
 苦しそうに、でもどこか恍惚とした表情で俺の願いを叶えるトウカを見るのが、俺はたまらなく好きなんだ。
 トウカが俺のために必死になっているとき、その瞳には確かな熱が宿る。きっとトウカは自分が愛される価値のある人間だと信じられる。俺は、そのための理由を与えているだけなのかな。
 俺のために何かを成し遂げたときの、あの誇らしげな顔。俺が「ありがとう」って笑いかけたときの、あの嬉しそうな顔。あれが彼の幸せの形なら、俺がトウカを困らせることは、彼を幸せにしているのと同じことなのかな。
 その事実は俺の渇きを潤すどころか、さらに飢えさせた。
 もっと知りたくなった。もっと違う種類の愛を、この手で暴いてみたくなった。
 だから俺は、今日もトウカにおねだりをする。
 次はどんな顔で、どんな形の愛を、俺に見せてくれるのかな。

 トウカ、俺たちはずっと一緒だよね。




著:東妻 リョウ

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