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【#三条ユウヤ生誕祭2026】君を知る 2026.10.09 【#三条ユウヤ生誕祭2026】君を知る

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 普段から、人の誕生日には敏感な方だ。
 家族、親戚、地元の友だち、仕事で世話になった恩人。
 毎年カレンダーを買えば真っ先に、大勢の誕生日を書き込んでいくし、スマホのカレンダーにも、人の誕生日を毎年繰り返す予定として登録している。

 めでたい日をお祝いするのが好きな性分なのだ。

(せやけど……親しくても逆にムズいことあんねんな……)

 祖父母の輪読会を引き継いで知り合った、シュウとユウヤのことが頭に浮かぶ。
 二人は大事な友人だ。仕事でも地元の付き合いでもない縁で知り合って、本を通じて話すうち、並の付き合いより深いところまで互いの価値観や思考のクセを知るようになった。
 反面、浅い付き合いでサクッと知れるような趣味嗜好については、案外情報がなかった。

(まぁそら……本読んどる途中にいきなり自分の自己紹介やらせぇへんし……。けど、そういうベースのとこ、すっ飛ばしてしもてるんよなー……)

 さらに悪いことに、頼れる情報源たるSNSを、二人は全くやっていなかった。
 アカウントぐらいはあるかもしれないが、少なくとも積極的に投稿してアカウントを運営している様子は無い。そんなことやる暇があれば、機械をいじり、筆を握るような、この年代にしてはストイックにも見える人生を送っている。

 誕生日の日付だって、自分の祖母を通じてそれぞれの祖父母に連絡してもらい、なんとか知ることが出来たのだ。
 そこから嗜好品、となると、さらに難易度は上がる。

(ほんでもシュウはまぁ、どないかなったけど……)

 彼の場合、知識に対して貪欲なのが大きかった。
 一度物理学の話になったとき「一つの現象に、全然別の理論でのアプローチから複数の答えが出されて、しかもそれが全部正しい、ってことは、物理学じゃよくある」と教えてくれたことがある。

 知った気になっていることも、違う角度から見つめてみれば思わぬ答えが得られる。
 だから、同じようなテーマの本でも、著者が違えば新しい発見がある。それでつい何冊も買ってしまう、と。

 無骨なエンジニアのように振る舞う彼の内面に、アカデミックな好奇心があるのだと、最初はギャップに驚かされたものだった。
 だが、だからこそ、彼のプレゼントは安心して贈れると思った。あのときは丁度、五十歳前後の先輩の引っ越しの手伝いに行って「もういらねえから、こういうの好きな知り合いに渡してやってくれ」と、半ばバトンを中継する形で、バイクのスクラップ本をもらったばかりだった。

(あんときはシュウごっつ喜んでくれたから良かったんやけど……問題はユウヤやな……)

 好みの幅は食に出る、と、アキラは思っている。
 シュウは何でもよく食べる。身体が大きいこともあり、好き嫌いなくしっかりと何でも平らげる。

 一方のユウヤは、相当の偏食だった。
 付き合いがまだ浅かった頃、うっかり串カツの店を予約してしまったことがある。

 ユウヤは店の前まで来て
「あ。ほな、悪いけど俺ここで。用事あんの思い出したわ」
 と、スッと帰って行った。

 あのときは何か気に障るようなことをしてしまったのかと思ったが、あとで、揚げ物が食べられなかったことを知った。店を変えさせるのも悪いし、楽しそうなこっちに水を差すのも悪い、と思って、あのときユウヤは黙って帰ったんだろう。
 彼がかなりの偏食家であることを知ったのは、それから後のことだ。

 自分の嗜好をきっぱり持っているユウヤだからこそ、プレゼントは外したくない。

(ユウヤ……ユウヤ〜……んんん〜〜〜。改めて考えると、アイツどないな人なんやろな……)

 やはり印象に強いのは、ツンとしたすまし顔の、京都千年を継ぐ書家たる姿だった。
 
(順当に考えたら、書に関する何かがええのかなーとも思うんやけど……。インド人に素人知識でカレー粉贈るようなもんやし、ユウヤ相手にちょっと安直すぎる気ィするなー……)

 うーん、と腕組みして考える。
 何かユウヤを知れるヒントはないかと考えていると、ファンレターのファイルが目に入った。

(あ、せや。ハガキ。ユウヤが過去にラジオに送ってくれとるやつ、なんやヒントあるかも)

 ごそごそ、とユウヤからのファンレターを収納しているハガキファイルを引っ張り出す。
 ユウヤは、本人こそ頑として認めないが、自分のラジオのリスナーで、ハガキ職人だった。
 今時メールが主流になっている中、毎回墨を擦って、丁寧に時間と心を割いて届けてくれる。
 どうやら輪読会で知り合った数ヶ月後くらいから聞き始めてくれているらしい。
 ユウヤの祖母が自分の祖母との付き合いで、応援がてら聞いてくれていたのは知っていた。きっとそれを、孫にも布教してくれて、ユウヤが聞き始めたんだろう。

(どれどれ……てかやっぱ字ィうまいな……)

 そんなことに気を取られつつも、ユウヤのハガキを読み返していく。
 最近のやりとりから、徐々に過去へ、過去へと。

 いつも見ている、どこかツンとした様子のユウヤと違い、ハガキからは屈託なく笑う彼の姿が見えるような気がした。
 普段あまり素直になれないだけで、本来は割と砕けた性格をしているのも、最近分かってきた。

(……やっぱえぇなぁ。ハガキ……)

 そんなことを思いながらハガキを遡って、ふと、手を止めた。

『いつも楽しく聞かせていただいています』

 そんな前置きから始まって、ユウヤはつらつらと、自宅の猫のことを書いていた。

 ひなたぼっこしている姿が好き。
 優しく抱き上げると、柔らかい声で返事をしてくれる。
 顔をくっつけると、太陽の匂いがする。
 ゴロゴロ言う声が穏やかで、一日中聞いていられる。
 お猫さま万歳。

 概ねそんな内容が、ハガキの紙面をみっちりと使って書かれていた。
 このハガキだけ濃度が濃い。

(これヒントなんちゃう? なんで猫の話になったんやっけ……)

 ハガキの日付を確認して、自分の放送のバックナンバーを辿る。放送内容はすぐ分かった。
(最近癒やされたもの、これなしじゃいられないもの……! これやん! なぁこれやん!!)

 離れにあるユウヤの書斎で輪読会をする時、猫の姿を見かけたことはない。
 だが思えば、ユウヤの家には猫がいる形跡がたくさんあった。

 玄関に置かれた、猫用のキャリーケース。エチケット用ブラシ。
 考えてみればお茶請けが乗っている小皿も、猫の形をしていたように思う。

(え、え、待って待って。俺が見落としとっただけで、もしかしてユウヤって、めちゃめちゃ猫好きなんちゃう……?)

 一度気付くと確かめずにはいられなくなって、思わずシュウに連絡を入れた。

「あ、好きだな。猫」
 と、シュウはあっさり答えた。
「え、やっぱ知っとったん?」
「んー、知ってたっつぅか……なりゆきっつぅか……。あいつとよく猫の写真やりとりすっから、多分好きなんだろうなって……」
「どないな流れ!?」
「覚えてねえ」

 通話後、シュウは、ユウヤとのメッセージのやりとりをスクリーンショットで送ってくれた。
 文面はない。お互い淡々と、猫の写真をラリーさせている。

「おぉ……」

 自分だと出来ないタイプのコミュニケーションに、ただただ驚かされる。

 シュウの写真は、そこに猫がいたから撮った、といった写真に見えた。気の置けない、シャッター一回で撮ったラフなものだ。
 一方ユウヤの写真は、光の加減も、猫の表情も、全体のバランスも考え尽くして、何度も撮り直されているように見える。

(ホンマの猫好きや、これは……)

 猫を見つめるユウヤの姿を、想像する。
 いつもの涼しい表情ではなくて、暖かく幸せそうに目を細めるユウヤを思うと、なんだか不思議な気分になった。自分の知らないユウヤが、確かにそこにいると思えた。

(俺もいっぱい、写真撮って贈ったろ。俺、写真うまいねんで? ユウヤ)

 腹の中でそう呼びかけながら、さっそく靴を履いて出かける。

(猫集会のスポットは……っと)
 そう考えながら街を行く足取りは、軽かった。





著:佐久田 葉
イラスト:青猫

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